キョウコ・モリ『シズコズ ドーター』

シズコズ・ドーター (角川文庫)
長い間読みたくって読めなかった。一段落ついたので帰宅後一気に通読。

「著者キョウコ・モリは、1957年神戸に生まれる。
 父親は鉄鋼会社の重役を務め、経済的に恵まれた家庭に育つ。
 神戸女学院大学付属の中学に合格した直後の12歳のとき、最愛の母親が自殺した。父親はまもなく、再婚してしまう。
 その頃から、キョウコは深い喪失感によって、母と濃密な日々を過ごした「日本」から離れようと心に決めていたようだ。
 神戸女学院大学に二年間在籍後、アメリカ・イリノイ州のロックフォード大学に編入学し、さらにウィスコンシン大学の大学院に進学する。以来、アメリカに移住して現在に至る。
 …本書が母国日本で出版することが決まったとき、キョウコは自ら翻訳することを拒んだ。」(編集後記より)

 
キョウコ自身のように、12歳の少女有紀は最愛の母親静子の自殺を経験する。その後、すぐに再婚した父に対しては勿論、友人や親族に対しても、彼女は愛を抱くことができなくなる。「普通の女の子」のように思春期の母との分離を経験することの出来なかった彼女は、メランコリーから抜け出ることができず、そしていつも違―場所感(out of place)を抱くようになる。物語は、彼女がいかにして母を、母の死を意味づけて、愛することを身につけるようになるかを、多感な彼女自身の目から、そして彼女を巡る人々の目から、丁寧に丁寧に描き出す。時に暴力的なまでに、心を揺すぶるその文章を、キョウコは自ら日本語に翻訳することを拒む。それは、日本語という言語それ自体への違―場所感に基づいているのだろう。
吉本ばななやトニ・モリソンが好きな人にはとてもいいと思う、というよりも、個人的には吉本よりもずっといい小説を書いていると思う。泣きながら一章を読んでから、読んでいる間はずっと、自分がどこにいるのか分からなくなるような、「自分」の喪失の経験だった。それは、きっと幸福な時間だろう。