N.K.ジェミシン『五番目の季節』1

序章 あなたはここにいる

 世界の終わりから始めよう。さっさとそれを片付けて、もっと面白いものに話を進めよう。
 まずは個人的な終わりだ。これから幾日もの間、息子の死がどのようなものだったか想像し、本来的にあまりにも無意味なものを何とか理解しようと努力するにつけ、彼女が考え続けるだろうことがある。彼女はユーチの砕かれた小さな体を毛布で包み――彼は暗闇を怖がっていたから、顔は除いてーーその隣に感覚なく座り、外で終わりゆく世界に何の注意も払わないだろう。世界は彼女の中でもう終わっていたし、そもそも終わりというもの自体初めてのことではなかった。彼女はそれにもう慣れっこになってしまっていたのだ。
 その時、そしてそれから後、彼女が考えていたのは、でも彼は自由だったということだった。
 そして、彼女の当惑し、動揺した自己がこのほとんど疑義のようなものを何とか生み出すたびに、彼女の苦痛に疲弊した自己は答えるのだ:
 そんなことはなかった。まさか。でもこれで自由になるだろう。

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 けれどあなたには文脈が必要だ。もう一度、大陸規模で書かれた終わりを考えてみよう。
 ここにとある陸地がある。
 陸としてはよくあるものだ。山や高原、峡谷、三角州のある、普通のもの。いたって平凡だ、その規模とダイナミズムを除けば、だが。この陸地は非常によく動く。寝床に伏したものの落ち着かない老人のように、この陸地は持ち上がり、ため息をつき、しわを寄せては放屁する。当然のように、この陸地の人々はこれに「静かなる地」という名を付けた。これはひっそりとした、しかし痛烈なアイロニーの陸地なのだ。
 「静かなる地」には他の名前もあった。これはかつては複数の別々の陸地であった。現在は一つの広大な裂け目のない大陸だが、将来いつの日にか一つ以上のものになるだろうとされている。
 実際、それはもう間もなくのことだ。
 終わりは、ある都市で始まる。現存する世界最古の、最大の、そして最も荘厳な都市。ユメネスと呼ばれるその都市は、かつてはとある帝国の中心だった。ユメネスは今でも多くのものの中心だが、この帝国は、帝国というものにはよくあるように、その最初の栄華から幾年かの間に幾らか衰退してしまっていた。
 ユメネスを唯一無二のものにするのはその規模ではない。世界のこの一角では多くの大都市が、大陸のベルトのように、赤道に沿って鎖状に結ばれている。世界の他の場所では、村が町へ成長すること、そして町が都市へ成長することは殆どない。大地がそれを食べようとし続ける中で、こういった政治組織を維持することは難しいのだから…だがユメネスはその27世紀のほとんどの間安定を保っていた。
 ユメネスが唯一無二である理由は、ここが人類が安全のためでも、快適なためでも、美のためでもなく、勇気のために建立したただ一つの場所だからだ。
(続く)