ナサニエル・ホーソーン『緋文字』

完訳 緋文字 (岩波文庫)
二十世紀以前のアメリカ文学の最重要作品の一つといわれる、姦通小説です。胸に(罪の徴である)Aの刺繍をされる女の話。
このAの文字、罪の徴であると同時に彼女が(社会的にはともかく少なくとも町の人の心理的に)受け入れられるにしたがって家庭の徴をも意味するようになるなど、今読むと非常にラカーンな感じ。終盤、被抑圧の徴を自ら身に纏うことで主体性を得るようになるというくだりは美しい。ただ、彼女が姦通の相手である神父と共にアメリカを捨てる覚悟がついたのに対して、最後の最後で神父が勝手に懺悔して刑罰台に立つのはなかなか酷い。でも当時の文脈ではあそこでアメリカを捨てるということはできないんだろうなぁ、モダニズムならともかく。