ティム・オブライエン『世界のすべての七月』

世界のすべての七月
ってわけで今度はヴェトナム戦争とそのトラウマ的記憶、お分かりの通りオブライエンです*1
舞台は2000年、1969年当時の同窓会に集った男女のそれぞれの30年について語られます。それが直接的に戦争をテーマにしたものであってもそうでなくても、トラウマ的な記憶の回帰とそれが身体に結びついていること、そしてもうどうしようもなく失われてしまっていること。オブライエンのいつものテーマは、なかなか後味悪くていい感じです。で、教科書的にヴェトナム戦争を巡る記憶の特異性を整理すると、一つはもはやそれがナショナルな感情に結びつけるのが難しい(少なくとも何らかの捩れがないと無理だ)ということ。それは自己肯定感情からは遠いということ。ただし、だからといってそれがヘミングウェイのように「男らしさ」に結びつかないかといわれたらそうでもなくて、ヘミングウェイからオブライエンへの半世紀強でなんていうか男らしさの質の変化みたいなのが起きている気がします。一言で言うとこの小説にはある意味で非常に「男らしさ」がある。そこら辺が村上春樹との違いなのかなぁと思うのですが。

*1:あとがきで「ヴェトナム戦争以外の小説は書かないんですか」って言われたとぼやいていました