大人になる児童文学

夢みるピーターの七つの冒険

夢みるピーターの七つの冒険

バイトに向かう電車の中で読みました。
一人でいること、空想にふけることを好むピーター少年は、この本の中で人形に、ネコに、赤ちゃんに変わり、消えるクリームで家族を消し、近所のおばさんのどろぼうに出会うといったの夢想的な「冒険」を繰り返します。この本の面白いところは、自分や身の回りのものが何か全然別のものに変わり、その後で世界の見方が変わっていくような「冒険」の一番最後に、ピーターが「大人になる」夢を見ることです。あとがきで作者のマキューアンは書きます、「しかし、大人は子供向けの文学が本当に好きなのでしょうか。…われわれが子供のための本が好きなのは、そうした本を子供が喜ぶからです。これは文学の問題というより愛情の問題です」。だからこの本は、「子供についての大人向けの本」だ、とマキューアンはいいます。児童文学が大人から子供への愛情から書かれているものだとしたら、この本はその背表紙を裏返して、その愛情を大人に投げ返します。ピーターが「大人になる」夢を見るのは、大人がピーターにとって(そしてピーターに自分を重ねる大人の読者にとって)見知らぬものだからです。子供はだんだんと大人になります(ピーターもそれを知っています)。大人は自分が大人だということを知っています。でも「大人」が面白い、奇妙な、よくわからないものであることは、忘れてしまっています。ピーターの物語は、「子供への愛情」を使いながら、大人にこういいます;周りに目をむけてごらん、おもったより大人って面白いよ。