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17h30、横浜。
友人の結婚披露宴二次会は今年2度目で、年内にあと二度ある予定。ようやく始まった第一次結婚ラッシュに自分の年齢を改めて数えては戦慄を覚えつつ、ワインでいよいよぼうっとしてくる頭で新郎である友人の決意表明を聞き流す。彼と彼のパートナーにたくさん楽しいことがありますように。

僕はといえば体調を崩したり実家に帰ったりまた体調を崩したりして一ヶ月をすごしていました。この一ヶ月で読んだSFだけ。

海を失った男 (河出文庫)

海を失った男 (河出文庫)

知的障害児の「手」への(との)歪んだ愛を描いた「ビアンカの手」、知能・精神・社会的成長についてのブラック・ユーモア「成熟」、古典的宇宙SFガジェットを用いつつ核家族ヘテロセクシズムへの疑義を突きつける「三の法則」など、結婚式の話の後で取り上げるのにこれほど相応しくない本もないだろうというくらいスタージョンの短編集。
「二つの有機体が各細胞を一時的に融合させる。それからまた分離して元に戻るわけさ。これは生殖作用とはまったく別物だ。それぞれがお互いの一部を獲得するだけのこと」作中の登場人物が述べる単為生殖生物の交配「シジジイ」は、本書に収められた殆どの物語の結末部における認識論的転回のメタファである。そこでは「私はあなたを愛している」の「私」が疑われ、「あなた」は誰かが不確かになり、「私→あなた」の力関係が逆転し、「私とあなた」という世界が境界を崩し、そして「愛している」の意味が問い直されるのである。

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズ1および2巻、新訳が出てたので初読。生命、宇宙、その他もろもろの答え、の元ネタを初めてちゃんと読んだ(念のため:答えはこの記事のタイトルです)。

アインシュタイン交点 (ハヤカワ文庫SF)

アインシュタイン交点 (ハヤカワ文庫SF)

冒険成長小説の形で描かれるディレイニーの神話的SF。雄「ロ」、雌「ラ」のほか、聖=穢なるものとしての「レ」、身体・知覚的障害等により機能不全者とされる「称号なし」という性的能力に基づいたジェンダー/階級システムを持ち、「異なるもの」に対して不寛容なものとして描かれる「人間後」の世界における物語は、その末尾において正しい「ロ」であろうとした主人公が被り、もたらす(上記のスタージョンにおけるそれのような)認識論的転回を示唆する。ただしディレイニーにおける「ジェンダーシステムの外」はある種のオートエロティシズムのかたちをとっている。

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

うって変わってこちらは正統的な海洋冒険戦争青春SF。ひと夏の休暇で港町を訪れた政府高官の息子が、地元の少女と再会を果たし、彼女やその友人らとともに海へ出、やがて父や国家を向こうに回し、惑星全体に及ぶ機密計画を解き明かす…という筋立てはまさに「正しい男の子の物語」(末部における宇宙観、人間/動物観のどんでん返しはカタルシスそのもの)。個人的にとても楽しく読みました。

ふたりジャネット (奇想コレクション)

ふたりジャネット (奇想コレクション)

こちらはユーモアSFに近い(もちろんアダムス的ドタバタはないが)。サリンジャー、ピンチョンら有名作家が続々と田舎町に引っ越してくる表題作(というかピンチョンの顔って誰がわかるんですか?)、その名の通りイギリス(正確には北アイルランドを除いた3王国)が大西洋をアメリカ大陸へと航行する「英国航行中」もいいが、パン職人にしてバンドマンであり、エンジニアであり、弁護士であり、気象学者である長身の中国系アメリカ人、ウィルソン・ウーが怪しげな数式で怪奇現象を解決する「万能中国人」シリーズは実におかしい。そのおかしさの4割くらいはオリエンタリズムだとしても。奇妙な状況が、いつの間にかなんだか解決してしまう、というプロットを採用しつつ、「なぜ」「どうやって」ではなく「いつの間にか」「なんだか」が核になる物語構造は、ダグラム・デイヴィッドスンっぽい。あと「熊が火を発見する」はアーヴィングより泣けます。

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)