バートルビーと仲間たち

体調が悪く頭がまわらないので二ヶ月ほど前に読んだ本をぱらぱらとめくり返してみました。

バートルビーと仲間たち

バートルビーと仲間たち

計86の断章からなる本書は、ヴェルザー、カフカに始まり、サリンジャー、ピンチョンなど「書くことができなくなった作家たち」の雑多なエピソード集として構成されています。テキストは彼らの沈黙を、連帯への、制度への、そして言葉自体への強烈な否定(ノー)の身ぶりであると解釈し、それを「文学とはそれ自体の否定である」という近代的小説観の現れであるとみなします。本書ではそうした彼らの否定の身振りは、かの有名な「I would prefer not to」のバートルビーになぞらえられ、「バートルビー症候群」と呼ばれます。すなわちここではバートルビーの「I would prefer not to」は、呼びかけへの強い否定、つまり「何か」の―もちろんこの「何か」とは、「言語に対して過剰であるもの」と考えられます―の肯定を意味することになります。そのため、これらの「書かない」作家たちのエピソードは、彼らの孤独/沈黙を言語外の実存の肯定と捉える、モダンでロマンティックな作家像を再生産することとなります。

ジジェクアガンベン的なバートルビー観―「I would prefer not to」とは、内実を伴った否定ではなく否定の形式/形式の否定そのものであり、それは問いかけ/呼びかけの裏にあるイデオロギーそのものをコミカルに脱構築する、というような―を考えると、こうした作家像はあまりにナイーブに過ぎるように思われます。けれどこういう本が売れているということは、こうして誰もが「書く」ことができるようになり、文学という制度が死の危機にあえぐ一方で、ロマンティックな作家像はますます強固になっているということなのでしょう。と、眠くって頭がまわらないのであとはリスの写真でもはっておきます。リスかわいいなあ。