ヴァラナシ白昼夢

前回日記に書いたように、ヴァラナシという町にいます。
ここはガンジス川沿いの聖地ですが、同様に多くの人が訪れる観光地でもあります。ガンジス川沿いには数十を数えるガート(水位に関わらず沐浴ができるよう、階段状になった堤のことです)が並び、その周囲には石造りの家々の間を縫うようにして、入り組んだ石畳の小道が続きます。
メインの通りには多くの服飾店が並び、その前に午前中は野菜の市が、午後からは食べ物の屋台が軒を並べます。往来には多くの観光客が行き来します。通りにはリキシャのクラクションが、バンダナやバックルなどの土産屋の呼び込みの声が、絶えません。西洋人や日本人・韓国人向けの店も多く、イタリアンや日本料理を出す店があるのはもちろん、客引きも怪しげな日本語で声をかけ続けます。今日は朝も早くから、男が近づいてきたと思うと「お兄さんマリファナいる?お兄さん貧乏そう、でも大丈夫、安い。安いBut Good Quality」と声をかけてきました。余計なお世話です。
 
けれど彼らの声を聞き流しつつ小道を進み、観光地区を抜け地元の人たちの住宅地区へ入っていくにつれ、喧騒は次第に遠のきます。
男たちは昼間から何をするともなく道端でチャイをすすり、子供たちはクロケットのボールを追いかけます。うだるような暑さ。石畳の道はくねりながらどこまでも続き、ふらふらと歩いているとどこにいるのかすぐにわからなくなってしまいます。そのたびに立ち止まり、日陰に腰掛けます。チャイ売りがいればチャイを頼み、安い葉巻煙草を吸い、またふらふらと歩きます。気が向いたらふっと東側へ向かえば、すぐにどこかのガートに出ます。ガートに腰掛、足をひたしながら意外に早いガンガーの流れを眺めます。チャイ屋で暇そうにしている老人がいれば、話しかけ、ヒンディー語をいくつか教えてもらい、退屈を共有します。雨季の蒸し暑さにへばった犬や、猿や、牛や、山羊を眺めてから、もう一本煙草を吸います。
そんな風にして暮らしています。退屈と向き合うままに、日にちや時間の感覚もなくなってきて、外人である僕はインド人にはなれはしないけれど、この町の風景の一部になりたいと、そんな風なことを考えています。