Take Care of Yourself

23h0@S Cafe。エスプレッソ。読書。時間がゆっくりと流れる。

故郷 (岩波文庫)

故郷 (岩波文庫)

イタリアのWW2前くらい〜の「ネオレアリズモ」の代表作。地方にやってきた都会の男(刑務所から出たばかり)がそこで一人の女に出会うが、結局その地方において「よそ者」であり続け、彼女の生(性)も死も所有することが出来ず再び都会へ戻っていく、という筋立ても含め、何だかアメリカのモダニズムっぽい感じ。訳者あとがきに拠れば、原題は直訳すれば「お前(単数)の故郷たち(複数)」。実際主人公の男は都会においても(元恋人を寝取られたりして)居場所がなかったためもう一人の男の故郷である地方に来て、そこでその男の妹と恋人になる(終盤でその男はこの妹に昔手を出したことがあることが痛ましい事件と共に明らかになるのだが)わけで、このタイトルは極めて皮肉に響く。地方の情景描写も、そこでの人々の関係性も、郷愁ではなく常に違和感と共に描かれ、そこで彼は(僕らは)迷い、こっそりと抜け出すしかない。

それから、帰ろうとするが、道がわからなくなってしまった。木立の茂みのかげに、モンティチェロの丘の頂が見える。それゆえ反対側へ行き、さらに歩いて進む。砂は草になり、のぼりにさしかかる。けれどもやはり迷ってしまった。しばらくたって、その窪地を抜け出したときには、思わずため息をついた。濡れた石の上で足首をよじったり、焼けつく砂の上を走るのには、もう飽き飽きしていた。こんな場所ならば、そうだ、思うがままに人を殺すこともできるだろう、とぼくは思った。