F.Scott Fitzgerald, _Tender is the Night_

Tender is the Night (Penguin Essentials)
その頃に読んだものの途中でついていけなくなり投げ出した本。丸一ヶ月かけて読了。フィッツジェラルドの長編の中では一番文学らしい文学だろう。アメリカ性についてアメリカの外部(ヨーロッパ)から書く、あるいはアメリカン・ドリームについてその失墜後から書く、というスタイルはいかにも後期モダニズム的と言え、何も考えずに読んでいるとどことなくヘミングウェイっぽい気もする。
ヘミングウェイとの最大の相違は、ヘミングウェイが「既に失われたもの」を描き出すのに対してフィッツジェラルドは必ず一度きらきらとした夢の達成を描き、それを失っていくことそのものを書くところだろうか。精神科医で、誰からも愛される男ディックとその患者ニコルとの恋、結婚、そしてその破局を描いたこの作品は一般的にフィッツジェラルド自身の自伝的な位置づけがなされるが、実は彼らの破局は最後の最後まで(その予兆はひたすら続くものの、実際の破局は本当にラスト数ページまで)訪れない。むしろ失墜のその過程を描くこと、失ってしまったもの(それはむしろギャッツビーのように夢を抱かせる)よりもこれから先は失うことしかないのだという絶望、それを通してフィッツジェラルドは極めて逆説的な形で、我々にアメリカやその夢の「影」を想起させるのだ。
それにしても改めて驚くのが、最期の破局の時においてディックが未だ三十四くらい、ニコルに至っては三十歳でしかないことだ。未だ若いのに、と思いながらも、昔読んだときよりも分かった気がしたことに自分自身の年を感じる。