Richard Powers, _Plowing the Dark_

Plowing The Dark

僕の専門にして最も尊敬する小説家、リチャード・パワーズが来日。第五作_Plowing the Dark_(『闇を漕ぐ/闇の中でセックスする』)についての講義を行う。
VRについての小説である本作品を題材に、講義の内容はイメージを巡る戦争(こないだの風刺漫画問題がそうであるような)と、脳内におけるメンタル・イメージの地図の問題について。いかにしてコードから自由になるか。そして、いかにして遠く離れた二つの世界をつなぐ―不可能な出会いを達成するか、について。
パワーズはそれは想像力によってしかなしえない、と指摘した後で、「読むこと」の重要性を訴える。人間は進歩によって「創造的孤独(productive solitude)」を失ってしまった、という、五年間監禁されたアメリカ人の言葉をひきながら、パワーズは読書をその最後の牙城だと指摘する。そこに一時的に引きこもり、そしてもう一度出てくることによって、我々は世界とのつながりを取り戻すことができるのだ、と。
こうしたパワーズの持論は、Joseph Deweyの書いた、現在に至るまで唯一のパワーズ本(紹介本は除く)であるUnderstanding Richard Powersの議論と基本的には重なっている。個人的にはそこから外れた話が聞きたかったし、それについていくつか質問も行ったが、まだ消化し切れていないのと論文で書きたいのでここでは省略。
 
ともかく、リチャード・パワーズ氏とすごした一時間半はすさまじく刺激的でした。背高い、わりとオサレ(ピンクのシャツが似合ってた)、そしてなかなか格好いい。奥さん(らしき人)もとてもステキ。声が渋いし、なにより優しい。講義は素晴らしく丁寧だったし、質問にもいちいちしっかりと答えてくれた。そして小説についてはすさまじく熱い人だった。正直あそこまで前向きな人だとは思わなかったけれど、優しさと知的さは期待通り(期待以上?)。いやーよかった。
講義の後も質問攻めにして、論文を渡したら「必ず読んでメールする」と言ってくれてすさまじく幸せ。卒論なので内容的には不満があるが、他の論文は全て日本語で、英訳する時間が無かった。メールかえってきたら送ろうっと。
その後青山ブックセンター柴田元幸トークショー。新作の話も出て嬉しかった(秋に発売らしい。カプラ・シンドロームを題材にしたニューロ・サイエンス・ミステリー。shokou5くん、お世話になります。色々教えてください)。メインはこの夏日本語訳が出版される『囚人のジレンマ』(以前日記で取り上げたやつです)の朗読会。冒頭の、それこそ日記で取り上げた辺りの朗読。以前ロバート・クーヴァーの時も思ったけれど何でこんなに朗読うまいんだろう。目を閉じて声に浸る幸せ。生きててよかった。

あと、関係ないけれど小野正嗣さんにもお会いした。お会いしたって言うか知り合いの先生の後輩さんらしくって、やたら絡んだ。むやみやたらにハイテンションで楽しい。サインねだったらドラえもんの絵を描いて(これが妙にうまい)その下に「ふじこふじおM」と書いて「ほらよ」と来た。今はフーコーの翻訳をやりつつ、春からは東大で助手をやるらしい。おいおい小説はいいのか。あなたが助手をやると①彼の小説の頻度が減り、読者としての楽しみが減る②ただでさえ数少ない研究職のパイが減り、研究者(予備軍)としての将来が不安になるという二つの点で困るんだが。おとなしく小説書いてなさい。てなことを言ったら頭はたかれた。
 
にしても、パワーズにも小野さんにもお会いすることが出来て無茶苦茶うれしかった。なんていうかすごく頭の悪い子みたいな日記だけれど、今日はこの辺で。
私信:
興奮してしまっていきなり電話やらメールやらしてしまってすいません
>友人の皆さん