TOKYO!狂った街

今日も今日とてid:shokou5くんとデート。渋谷でオムニバス映画『TOKYO!』を見てきました。いやあ、よかったです。
形のない疎外感に悩まされる女の子を描いた<インテリア・デザイン>(『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー監督)に胸を痛め、東京に突然現れた「下水道の怪人」を巡るB級パニックもの仕立ての<メルド>に爆笑しつつも感心し、最後に総ひきこもり化した東京でのあるひきこもりの男の子のラブ・ストーリー<シェイキング東京>でちょっとがっくりきました。

<インテリア・デザイン>では、売れない映画監督の彼氏と一緒に東京に来た女の子が、バイトを不合格になり、転がり込んだ先の友達には「何もしていない」と邪魔者扱いされ、彼氏はファンの女の子に鼻の下を伸ばし…となる中で、自分の生きる意味に迷い、言いようのない疎外感にさいなまれます。彼氏は本当にダメ人間で、そんな彼女の不安を受け止めてくれず、彼女はどんどんと(文字通り)自分を見失っていきます。けれどある日彼女は一脚の椅子に変わり、たまたま通りがかった男の子に拾われます。その男の子の家で、その上で彼がギターを弾き料理を食べる椅子として、彼女はようやく自分が「何かの役に立つ」、居場所を見つけます。
ダメ男二人、少しだけ優しいラストシーンにじんとしつつ、しみじみと鑑賞しました。最後に彼女を拾う男の子も(彼氏よりは成功している風の)アーティスト風のひとで、彼女の疎外感と共にだめんずウォーカーの悲哀をしみじみと味わいました。個人的には、映画の機材を積んだ車がレッカー移動されてしまってあわてる彼氏に、彼女が「実は昨日のうちに機材は運び出しておいたの」と嘘をつき、なんとか荷物だけ取り出そうとひとり撤去車の集積場に向かうシーンがしみじみと泣けました。

<メルド>は一転、都心のマンホールから現れて人を襲い、ついには(旧日本軍の弾薬庫から爆弾を用い)大量虐殺を行う「下水道の怪人」を巡る政治寓話です。片目に障害を負い、奇妙な歩き方をする「怪人」はどこの国のものともしれない言葉を喋る「異邦人」で、前半はB級パニックもののようだった映画は、後半ではついに逮捕された彼を巡る日本の言説が、「異物」の排除への神経症的執着にとり憑かれていることをブラックユーモアを交えつつ描き出します。
とにかく無闇にユーモア(黒いのも黒くないのも)が利いていて、始終笑いが止まりませんでした。「怪人」の公判の場面で、彼の弁護人(世界で3人しかいない、彼と同じ言語を喋るひと)がいつの間にか通訳も介さず彼の言葉を代弁し始めて、「日本人は穢れているから殺した。彼らは自分が無垢だと思っている。私は自分が無垢だと思っている人間が一番嫌いだ」と熱っぽく語る横で、聴衆がまるで「こいつ頭大丈夫か?」という顔でいるシーンは、とても痛烈だなあと思いました。

<シェイキング東京>は、一言でいえば2ちゃんの妄想スレでした。ひきこもりの男の子がピザの配達人蒼井優に恋をするのですが、彼女に会おうとピザを注文して、ドアを開けたら竹中直人が飛び込んでくるシーンが面白かったです。


東京ものの映画、というとどうしても『ロスト・イン・トランスレーション』(あとはヴェンダースの『夢の涯てまでも』)が思い浮かぶのですが、良くも悪くもネオ・オリエンタリズム(「翻訳」で失われてしまうギャップが西洋/東洋にはあるのだ、という観念と共犯関係にある)に基づいていた『トランスレーション』に比べて、全体的に「東京」が背景に退いていたのが良かったです。