L'important C'est La Rose

18h30、下北、水星さん。みん亭の江戸っ子ラーメンは名前の割に驚くほど上品な美味しさ(麺の茹で方が上手いから、薄味のスープと実によく馴染む)。
フットサルシューズが欲しいという水星さんとasbeeで靴を見ていたら、学部一年からの友達の女の子にばったりと出くわした。東京の外れの町に住んで5年半。自分の住んでいる町以外で、待ち合わせてでなく人に出くわすことが少しずつ増えてきたのは、少しずつ東京に馴染んで来たということなのかもしれない。
20h@M。僕、デュボネー。水星さんもデュボネー。四元康祐『噤みの午後』の話。死者の中原中也は仏語訳のイェーツをみて、英語圏にもいい詩があるじゃないか、と呟く。私は彼にその訳された詩を買ってあげる。我々が死者にしてやれることなんて、それくらいしかないのだ。

「BLISS」
 
昼下がりの町はしんとしていた
バス停の横の石段に少女がふたり座り込んで話していた
何軒目かのカフェがやっと開いていて
その裏庭でぼくはただ一人ビールを飲んだ
町を出るときも少女たちは同じ姿勢のままで座っていた
 
止まっている村に戻って自転車を返しながら
バーバラにどうだったと訊かれて、ぼくは
Oh, it was bliss, it was just bliss!
と答えた。手もとの辞書によればbliss(名詞)は
無上の(天上の)喜び、至福、天国、天国にいること
 
青い空と太陽、雲と風、膚にあたる尖った草の穂
現世的といえばこれほど現世的な歓びもないのに
それが思いがけずあの世へと届く言葉の砂
あの果てしない下り坂を
僕を乗せた自転車が一気に駆け下りたとき

人間は消費者金融以外では金では死なないでしょう、と水星さん。小説や演劇や映画で死ぬことはあっても。それからダンスや詩も。ダンスや演劇や詩で死ぬのは美しい気がするけれど、と僕。小説や映画は何だかあまりしっくりこないな。単純に芸術としての歴史の問題じゃない?と水星さん。あと二千年経ったら当たり前になるよ。二千年後には、と僕は口に出さず思う。どんな小説が書かれているんだろう。