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14歳のX計画

14歳のX計画

コロンバイン校における銃乱射事件をムーアは『ボウリング・フォー・コロンバイン』において銃社会のひずみとして描き出したが、ジム・シェパードはこの作品で「普通の」少年がいかにして(引き返せないくらいに)事件を巻き起こさざるをえないところまで進んでしまったのか、その心情を丁寧に描き出す。
プロットは、虐めを受けていた二人の少年(虐めに対して受動的と言うよりはむしろ挑発的な態度を取る)が最終的に銃乱射事件を引き起こす、というもの。二人のクィアな繋がりが目立つが、犯行の直前、抑えられた描写の中で示される主人公と幼い弟や保健の先生とのかすかな交流の瞬間が切実に痛い。
 

パラダイス (トニ・モリスン・コレクション)

パラダイス (トニ・モリスン・コレクション)

Morrisonのノーベル賞受賞後初の作品。被差別者(エスニック・マイノリティ、ジェンダー・マイノリティ、植民地住民)が自らのアイデンティティを確立する際に更なる他者を作り出してしまう危険性(というよりは作り出さざるを得ない暴力性)はJudith ButlerやGayatri Spivakがさんざん指摘しているところだが、モリソンも勿論その問題に極めてセンシティヴだ。
奴隷解放後、「自由」になった黒人だが、その内部で色の濃さに応じて権力の不均等があったことはしばしば指摘される。『パラダイス』の中心舞台の一つは、色が黒いことで排除された黒人達が、自らのアイデンティティを肯定すべく作り出した黒人の町・ルーディだ。逆人種差別的・父権的・規律的で、女の死によって成立し、排除の原理に従って動くこの共同体に対比されるのは、そうした男性社会から排除された女達が集まる奔放で猥雑なもう一つの(女の)共同体、「修道院」である。作品は前者の男の共同体が自身の再構築のため後者を襲撃するシーンで始まり、個々の女達がこの修道院に集うまでを描いた数章をはさんで、再び襲撃のシーンで終わる。だが、その襲撃は(女たちを排除するものの)最終的には失敗に終わり、殺したはずの女たちはどこかに消滅する。
モリソンが示す「パラダイス」とは同一化と排除の原理でなく、(『ビラブド』の124番地のような)共感によって成り立つ緩やかなあわいの空間であるように思われる。ただ、『ビラブド』の母娘関係のような「繋がり」が明白でない分、この作品においては「修道院」における「共感」が何によって可能になっているのかがややわかりにくくなっている。排除されたもの同士の傷、というのも少し違う気もするが。うぅん。
 
それはともかく、相変わらずモリソンは書き出しが凄い。冒頭を引用。

彼らは最初に白人の娘を撃つ。あとの女たちは、ゆっくり片づければいい。ここで急ぐ必要はない。彼らは町から十七マイルも離れたところにいる。そして、町は他のどの町からも九十マイルは離れている。修道院には隠れ場所はたくさんあるだろうが、時間はあるし、夜は明けたばかりだ。

 

Gold Bug Variations

Gold Bug Variations

 
おそらく修論で中心的に論じる小説。厳密には一年以上かかって漸く読破。しかしPowersの中でも断トツに難しい。